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035 呪い

last update Last Updated: 2025-12-24 11:00:32

「穢〈けが〉れてるって……蓮司〈れんじ〉、あなた何を言ってるの」

「蓮〈れん〉くん、蓮くんも同じなの? ねえ蓮くん、答えてよ」

 自身のことを穢〈けが〉れていると言った蓮司の言葉に、恋〈レン〉も花恋〈かれん〉も動揺した。

「僕はね、花恋。今でもずっと、自分のことをそう思ってるんだ」

「蓮司あなた……そんな風に思ってたの? そんな風に自分を否定しながら、今まで生きてきたって言うの?」

「そうなるね。蓮くん、君もそうなんだよね」

「……はい」

 言葉と同時に膝から崩れ、蓮が地面に座り込んだ。

 頬に涙が伝う。何度も「ごめんなさい、ごめんなさい」そうつぶやく。

 そんな蓮の元に駆け寄り、恋が肩を抱く。すると蓮の感情は更に高まり、涙が嗚咽と共にこぼれ落ちていった。

「どういうことなのか、分かるように言って。自分のことを、なんでそんな」

「花恋も覚えてるだろ? 僕が中学時代、いじめられていたことを」

「……勿論よ。忘れられる訳がないじゃない」

「あの三年間は、本当にきつかった。今すぐこの世から消えてしまいたい、そんなことをいつも思ってた」

「クラスが別だったし、蓮司も話してくれなかったから、詳しくは分かってないと思う。でも友達から聞かされてたし、酷い目にあってることは分かってた」

「酷いなんてものじゃなかった。まあ教師の言葉を借りるなら、いじめられる僕にも原因があるらしいけどね」

「何よそれ。そんな馬鹿なこと言った教師がいたの? その時に聞いてたら私、絶対職員室に怒鳴り込んでたわ」

「花恋ならそうしてただろうね。でもね、いじめを受けてます、こんな酷いことをされてます。そんなことを話すなんて情けないって思ってた。そしてそれ以上に僕は、花恋を巻き込みたくなかった。優等生の花恋が職員室に怒鳴り込んでいく、そんな光景は見たくなかったんだ」

「いじめられてる側に原因があるなんて、それは加害者側の屁理屈じ

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